この秋で開場10周年を迎える新国立劇場。若杉弘・新芸術監督のもと、オペラ部門はワーグナーの「タンホイザー」で今シーズンの幕を開けた(初日8日所見。
芸術と人間の根源的な意味を問うこのオペラは、けだし新体制の船出にふさわしい出し物だ。だがまさにその点において、本家バイロイトで修行を積んだベテラン、ハンス=ペーター・レーマンの演出が要領を得ない。長大なバッカナール(ウィーン版使用)を含むヴェーヌスベルクの場面で、絶え間ない照明の操作や、舞台装置の移動などをこれでもかと多用したのは、妖(あや)しげな官能世界をあざとく強調する狙いなのだろうか。しかしそもそも雄弁すぎるほどの音楽を、それが有効に補佐し得たかどうかとなると、首をかしげざるを得ない。むしろ小細工を弄(ろう)さぬ第2幕歌合戦の場が、明快で強い説得力を獲得していたのが皮肉である。いずれにしても、より本質的な次元での、演出の意図ないし主張がみえにくいのが今回の難点だ。
それに対して音楽面の手応えはまずまずと言えるだろうか。第1幕はアルベルト・ボンネマ(タンホイザー)とリンダ・ワトソン(ヴェーヌス)のいささか締まりのないやりとりに終始して先行き不安を感じさせたものの、幸い第2幕に入るとリカルダ・メルベート(エリーザベト)の格調高い歌と演技や、若々しい美声でヴォルフラム役をさっそうと演じたマルティン・ガントナーの好演が、低空飛行の舞台を立て直した。気勢の上がらぬ劇場の空気を一変させた2人の功績は大きい。肝心のボンネマもやがて本調子に乗り、終幕の「ローマ語り」は堂々たる熱唱。元来、力のない人ではないのだ。
指揮はフランス人だがワーグナーに造詣の深いフィリップ・オーギャン。歌手リードは若干詰めが甘いが、東京フィルを率いて、ワーグナー本来の魅力にしっかり手の届く美しい演奏を聴かせたのは注目に値する。(音楽評論家)
毎日新聞 2007年10月15日 東京夕刊
劇場で観るのって違いますよねぇ!
2007年10月16日
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